花色の月


疲れきって部屋に帰ると、甘やかな那月さんの香りがした。

慌てて部屋の中を見渡すと、丸テーブルの上に一輪の花が置いてある。

…くちなしの花。



那月さん…来たんだ。
いくら居なかったからって、女の子の部屋に無断で入るのは…ねぇ?

なんて、本当は嬉しくて仕方ないの。

1日の疲れを一輪のくちなしの花が癒してくれる。

一輪挿しに生けようと思って持ち上げると、丁寧に折り畳んだ紙が結ばれていた。



…知花さまにしろ、那月さんにしろレトロなやり方で手紙をくれますねぇ。

そっと枝から外すと、淡い若草の和紙を広げた。



『今年初めて、くちなしが咲きました。
どうしても貴女に差し上げたくて』


…それだけ?

達筆な文字は筆と墨で書かれているようだ。

那月さんらしいけど……



どうしよう…
こんな事されたら、会いたい気持ちが押さえられなくなっちゃうじゃない…


窓の外は、田舎ならではの漆黒の闇。

この村で月守旅館より奥に住んでいるのは、那月さんだけ。


那月さんの居る如月窯の灯りは、ここまでは届かない。
だから、窓から見る景色には一つも灯りは見えなくて、疲れた体で山歩きは堪えるけれど


それでも、会いたい……