壁に掛かったカレンダーを見ると『もう貴女はコンクールには出させられない』と、先生に告げられた日から1週間が過ぎていた。


この1週間は、殆ど外にも出ずに小さなワンルームの部屋でひたすら落ち込む日々。


その時頭に浮かんだのは、今はたぶん故郷の山に居るはずの従兄の顔だった。



……桜ちゃん、元気かな?


従兄の桜介(おうすけ・愛称おうちゃん)とは、この音大に来てから数える程しか連絡を取っていない。


無意識のうちにダイヤルを押していたあたしは、もう限界だったんだと思う。





『はい、もしもし』


「桜ちゃん……帰りたいよぉ」



『花乃?今どこにいる?今朝、お前の先生から連絡もらったよ』



「……あたし……約束守れないの」



『約束って、なんの?』



電話口の懐かしい声に、まだ枯れていなかったらしい涙がこぼれ落ちた。



『花乃……?』



「帰りたいけど帰っちゃいけないの……」



『何で?帰っておいでよ』



「あたし……
お母さんとの約束……守れないから……」