「なぁ、瑠璃に言った『花を見に行く』っては何だったんだぁ?」
「あれ?そんな事言ったっけ?」
旅館に帰る道すがら、とぼけたように首を傾げると、いきなり頭をグリグリされた。
「いたい!いたいっ!こんの馬鹿力ーっ!」
「どっかの誰かが忘れた振りなんてしてるからなぁ。こうすりゃ思い出すだろう?」
「いや矛盾してるから。
忘れた振りなら、思い出す必要ってないよね?」
「……うるせぇなぁ」
十夢と、こんなアホらしい事でじゃれ合う時間も、僕にとっては焦がれて焦がれてやっと帰ってこれた証しみたいで嬉しくなる。
…こめかみ痛いけど。
「十夢……心配した?」
「言っただろう?何回も言わねぇよ」
「ふ~ん、じゃあ僕今日は花乃の部屋で寝よっと」
「そうか。じゃあ俺は寂しい一人寝だな」
余裕の顔で笑って見せる十夢が、夕闇の中でもハッキリ見える。
…来いよって言って欲しいだけなのに。
「なっちゃんと、ナンパにでも行くかなぁ。
この数ヵ月間の欲求不満を解消してくれそうな、綺麗なねえちゃんでも探すか」
「……ってろよ」
「ん~?聞こえねぇなぁ?」
「宴会抜け出すから!部屋で待ってろよ!」
「フッ、主役が抜けちゃあ不味いだろ。
みんなが酔っ払ってからに一緒に抜けるかぁ」
何でかなぁ…つい言っちゃうんだ。
十夢が言わせようとしてる事を。
まんまと乗ってしまった事が悔しくて、そっぽを向いて先を急いだ。
次の日の朝早く、瑠璃と翔は名残惜しげにトム・ソーヤに帰っていった。
十夢は翔に嫌みを言われながらも、しばらくここに居たいと言った僕に合わせて残ってくれた……
