おやすみを言い合って、花乃ちゃんは従業員の部屋へと帰って行った。
二人になった縁側で、何故か動かないなっちゃんを、部屋の中に招き入れる。
部屋に入ってきても、黙ったままのなっちゃんを尻目に氷を取りに板場に向かった。
氷を手近な器に入れて戻っても、なっちゃんは一ミリも動いていないようだ。
…多分。
「ほぉら、なっちゃんはうっすーい水割り」
「…濃い目に」
「なぁに言ってんだよ。薄くたって直ぐに酔っ払う癖に」
自分の前にはストレートを置きながら、さっき花乃ちゃんの前にいた男とは思えないくらい、不安げに瞳を揺らすなっちゃんの頭に手を置いた。
…払いのけねぇって事は、相当参ってるな。
「……帰ります」
「そんな顔してるんのに、はいそうですかって訳にはいかねぇだろぉ?」
「今だに……人が怖いと言ったら…笑いますか?」
「笑わねぇけどなぁ。
お前が怖いのは花乃ちゃんじゃねぇだろ?
彼女を失うのが怖いんだ」
サラリと髪をかき上げるのは、なっちゃんの癖だ。
何かを言いたくて…でも、上手く言葉に時の
なっちゃんの癖。
「まぁ、乾杯するかぁ?」
「…何にですか?」
「なっちゃんが、初めて恋の痛みを知ったお祝いに」
カチン
