花色の月


「花乃…頑張って欲しいですけれど、無理もしないで欲しいんです。…矛盾してますよね」


「…聞こえました?」


「えぇ、私は地獄耳なんですよ。
十夢には全く聞こえてないと思いますが」


小桜の間の縁側で、ひそひそと話をしていると知花さまが紐をプラプラさせながら戻ってきた。

…紐?

誰を縛るつもり?と、『何を』の前に思ってしまったあたしは、頭の中が腐れているのか壊れているに違いない。


「なっちゃ~ん、これで足りるかぁ?」


「…長すぎます」


「ありゃ?」


ハサミと一緒に那月さんに渡すと、那月さんはそれを短く切って草履を持ち上げた。

ぇ…?



「草履ならではのアクシデントですね……行きに鼻緒が千切れちゃったんですよ。
そうでもなけりゃあ、十夢になんぞおぶわせてあげなかったんですが」


「えっ…帰りは裸足で?」


「えぇ、片足は裸足でしたね。
壊れているのは袂に入れてました」


普通だったら気付きそうなものだけれど、明かりが少なかった事と、那月さんの着ている物が着流しだった事で分かりづらかったようだ。


「…ごめんなさい」


あたしを追ってきたりしなけれは、裸足で山道を歩くなんて事はしなくてすんだのに…


「謝る事は無いですよ。私が間抜けなだけですから」


そう言って袂を軽く裏返してパタパタと叩いた。


「あっ…怪我は……?」


「あぁ、間抜けですが夜目は利くので大丈夫ですよ。
流石に花乃に怪我をさせない自信が無かったので十夢に任せましたが」


……那月さんって、人ですか?

これを聞いたら怒られるかしら。