花色の月


「桜介と、似たような味がするんだろうなぁ?」



「…っ!」


動揺を隠せなかったあたしは、火鉢から上げたばかりの鉄瓶を持つ手を滑らせた。

怪我した方の手に掛かったお湯は、今の今までシュンシュンと音を立てていた熱湯。

幸い?包帯をしていたから、鉄瓶を丸ごと引っくり返さずに堪えることが出来た。




「……お、お前っ!何やってんだ!」



あたしの漏らした声にこちらを見たあいつは、一瞬状況が分からないと目を細めたけれど、すぐにお湯を溢した事に気が付いたようだった。



「も、申し訳ありませ……えっ?」



痛みに震えるあたしの手から、素手で鉄瓶を取ると火鉢に戻して、いきなり部屋を飛び出した。

あたしの事を、しっかり抱えて…



「あっ…あの?知花さま……?」



状況が分からなくて、どうして良いのか分からない。

なんで、あたしはこの人に抱かれてるの?




「邪魔するぞ!」


いきなり板場のドアを蹴り開けて、目を丸くするみんなの前で、あたしを流しの縁に座らせると

一気に水をぶちまけた。






「…と、十夢(とむ)…??」


唖然とするみんなの中には当然桜ちゃんも居て

こんな時なのに………そう言えば桜ちゃんには、知花さまが来るって伝えて無かったと、増えたミスの数に頭を痛めた。