花色の月


「……入ります…ね?」


返事を待っていてもらちが明かないからと、声だけかけて戸を開けさせて貰った。


薄暗い部屋に布団の山がひとつ。


「知花さま…ごはん持ってきたから、少しでも食べて…?」


そう言えば、この人に話し掛けて返事を貰えないのは初めてかも知れない。

あたしが無視をした事はあるけれど…


部屋の隅に充電器をさしたまま放置された携帯は、ランプを点滅させている。


「知花さま、電話来てるみたいだよ?
出なくていいの…?」


起きてはいると思う。
寝息は聞こえないし、たぶん息を殺していみたいだ。

失礼な事でもしたら怒って起きあがるかな…?

どうしようもなく稚拙な事しか思い浮かばないあたしは、携帯を手に取りながら大きめの声を出した。


「勝手に携帯見ちゃいますよー?」


少しだけ布団の山が揺れた?

でも、それだけ…


手の中で点滅するランプを見て気が付いた。

桜ちゃんとお揃いだ……それにカバーには桜の花が描かれている。

ここまで来たら…多少の興味も手伝ってボタンを押した。

その途端恐ろしい量の着信履歴を見てしまった。

……三桁って、初めて見た…



明るくなった画面から三桁の着信履歴と、桜ちゃんの笑顔が目に飛び込んできた。

本当にこの人の何から何まで桜ちゃんの気配が色濃くて、尚更ごはんくらい食べてほしくなる。