花色の月


おばあ様は、知らせを受けた時に倒れてしまい、そのまま寝込んでしまった。


「あ、明美ちゃん…」


「大丈夫やっ!桜介は帰ってくる」


そう言う明美ちゃんの瞳も不安げに潤んでいる。

なんで、神様はこんなにも意地悪なんだろう……
やっと、やっと桜ちゃんが帰ってくるって…


苦しくて不安で、なんで黙っていたんだと、永野絵里のあたしを叩く手にも痛みを感じない。


桜ちゃんが帰ってくるまで頑張ろうと、決めていたのに終わりの見えない日々に、あたしの気持ちはすっかり力を無くしていた。


それでも、何とか仕事はしていたけれど…




「嬢ちゃん……」


「武さん…?」


不意に部屋を訪れた武さんは、泣き出しそうに顔をくしゃくしゃにしていた。


「十夢の野郎が、返事もしねぇんです」


知花さまは、小桜の間から出てこなくなって、何も口にしていないらしい。

あたしに何が出来るだろう…
でも、このからっぽの気持ちはたぶん知花さまも一緒。

話をしてみますと、武さんに言ったは良いんだけど…

部屋の前に立つと、どうして良いのか分からなくなる。


「…知花さま……?」   


まるで部屋の中には誰も居ないみたいに、シンと静まり返っている。