「これもなかなか役得ですね」
「はい?」
背中に付けた耳に那月さんの声が響く。
「ぎりぎり、B…って所でしょうか?」
「……ぎりぎりは余計です」
クスリと笑う那月さんは、何を思ってそんなセクハラ発言をしてるんでしょう?
花の精みたいな俗世離れした見掛けと、中身のギャップが激し過ぎますよ?
でも、そんな那月さんも知れて嬉しいと思うのは……ギャップ萌えってやつかしら?
「じゃあ、気を付けて下さいね?…捻挫は癖になりますから。それと、何かあったら直ぐに電話してきて下さい。必ず駆け付けますから」
「…ありがとうございます」
道中話したのは、結局あのセクハラ発言だけで、寂しいくらいあっという間に月守旅館の側に着いてしまった。
驚いたのは、その場に知花さまが居たことだ。
黙ってあたしを那月さんから受けとると、明美ちゃんの待つ部屋まで運んでくれた。
なんか…自分がすごくちっちゃくなった気分なんですけど……
「じゃあ、ゆっくり休めよぉ?
俺はちょっくらなっちゃんとデートして来るから」
「…桜ちゃんが妬きますよ?」
「ふっ、少しは妬いてでも貰わねぇとなぁ?」
那月さんの先程の電話の相手は、知花さまなんだと分かる安堵した微笑みだった。
その背中を見送ると、訝しげに眉間に皺を寄せる明美ちゃんに、順を追って説明する。
