花色の月


「花乃……どうしますか?」


「ぇ…?」


あたしの髪をやわやわと撫でる那月さんの大きな手に、久しぶりに眠気が襲ってきた。


「私は、桜介が帰るまでここに居て欲しいです」


その言葉に甘えてしまいたいけれど、心の何処かがそれではダメだと叫んでいる。

あたしの顔を見るために、そっと体を離した那月さんは促すように見詰めてくる。


「…もう一回ギュッてしてください。
そしたら…桜ちゃんが帰ってくるまで頑張るから……」


言いながら図々しいお願いを嫌がられないか不安になってくる。
涙で那月さんが霞んでよく見えない。

…でも、それがあれば頑張れる気がしたんだもん…



「…花乃……」


そう甘くあたしの名前を呼ぶと、ちょっと苦しいくらいに抱き締めてくれた。

頑張ろう、桜ちゃんが帰ってくるまでは…




眠っている楓ちゃんの背中をひと撫でして、後ろにいる那月さんを見上げた。


「…さぁ、行きましょう」


どうしても送ってくれると言って聞かなかった那月さんは、何処かへ電話をして直ぐにあたしを抱き上げた。


「あっ、あの……また抱っこですか…?」


「はい、おぶった方が良いですか?」


…その二択しかないんですね……
でも、抱っこよりは大変じゃないですよね?


「じゃ、じゃあ…おんぶでお願いします……」


「あっ、そうですか」


あっさりおんぶに変えてくれたけど、これはこれで密着度が高いですね…