「おばあ様、桔梗の間に…」
「おや、知花様?」
「はい、常連さんなの?」
「…そうですよ。
桜介の…お友達です」
何故か歯切れ悪くそう言うと、立ち上がって何処かへ行ってしまった。
桜ちゃんのお友達かぁ…どんな人だろう?
桜ちゃんは、18歳になると世界をみたいと言って、カメラとリュックサックだけ持って外の世界に飛び出してしまった。
…『あいつ』と一緒に。
あたしは、桜ちゃんから送られてくる走り書きの手紙と写真、時にはフィルムを楽しみにして、次に帰ってくる日を指折り数えて日々を過ごしていた。
皮肉にも、桜ちゃんが世界を見たいと思ったきっかけである写真は、あたしのお父さんが旅先で撮ったもので
桜ちゃんに、カメラを教えたのもお父さんだ。
だから、桜ちゃんが今使っている部屋の隣には暗室まである。
もと、お父さんの部屋であるそこは何だか入り辛くて、前みたいに桜ちゃんの部屋で過ごす事も無くなってしまった…
桜ちゃんが飛び出してしまってからも、あたしはここでひっそりと、いつか桜ちゃんが戻る日を夢見ていた。
でも、高校を卒業して、ただ桜ちゃんを待つんではなく音楽の道に進もうと決めた理 由は
桜ちゃんみたいに光るものを得たかったからだ。
『あいつ』は1つも2つも光るものを持っていて、とても敵わないけれど、せめて1つでも身に付けたかったんだ。
もちろん、お母さんとの約束も大きな後押しだったけれど…
