花色の月


「まぁ、あんな女と結婚させられそうになったら、うちが桜介でも逃げるわぁ」


「…逃げるんなら、知花さま連れてってあげれば良かったのに……」


「…せやなぁ……無理しとんのバレバレやもんなアイツ」


明美さんはそう言って、口の回りに付いた粉はそのままに、あたしのベッドの上に寝そべるとモモの尻尾をモフモフした。



「…知花さま、元気ないですか?」


「なんや、会ってないん?」


ちょっと怒ったモモに引っかかれそうになって、寸での所で手を離すと驚いたように言った。


「会ってないです…」


酷いこと言ってしまったって言うのと、永野絵里が近寄らせてくれないって言うのが重なって、何日も顔すら見ていない。



「ふふ、会ったらいいやん?
十夢だって心配してしょっちゅう聞いてくるで?花乃ちゃんの事」


「ぇ…?」


「絵里って女にいびられて可哀想やって言ったら、女将さんとこに乗り込んでったみたいや。せやけど…女将さん洗脳されとるから……」


桜ちゃんが居なくなってしまってから、すっかり気力を無くしてしまったおばあ様は、部屋で休んでいる事が増えていった。

その上取り入るのは舌を巻くくらい上手い永野絵里は、いつの間にかおばあ様を味方につけていて

…確かに、洗脳って言葉がピッタリかも……