花色の月


「お疲れさん!」


「…お疲れさまです」


「なんや元気ないなぁ?
福田屋の大福食べたら元気なるぅ?」


なんで1日の仕事が終わったところで、そんなに元気なんでしょう…
余りの体力の差にため息しか出ないあたしの前に

明美さんは、ニコニコしながら大福らしい包みを取り出した。



「あっ、あかん!
お茶用意すんの忘れてたわぁ」


「あ、お茶ならありますよ」


ポットから急須にお湯注ぎながら言うと、そんな些細な事なのに心底嬉しそうに笑う明美さんが、なんだか眩しい。



「わーい!これでガールズトーク始められるな?」


「そうですね」


ガールズトークに大福と煎茶…
だいぶ渋いチョイスになったなぁ。


二人で熱々の煎茶を啜りながら、大福にかぶり付いた。

久しぶりに食べる福田屋の大福の変わらぬ味にホッと息を付くと、口の回りに粉を付けたまま真剣な口調で明美さんが話し始めた。



「なぁ、あの絵里って女。
ほんまに桜介の婚約者なん?」


粉付いてるって言うべきかなぁ…


「向こうは乗り気みたいですけど、なんせ桜ちゃん居ないですしねぇ…」


「やんなぁ?
なのに偉そうな口聞きよってぇ…二言目には桜介さま桜介さまって!」


「明美さんは、桜ちゃんのお友達なんですか?」


「ん?あっ、言って無かったっけ?
桜介とはけっこう付き合い長いんよ。せやから十夢の事も、花乃ちゃんの事もけっこう知ってるで?」


…何を言ったんだろう……
気になるけど、今はそんな事を聞いてる場合じゃなくて…



「関西の方なんですよね?
桜ちゃんがそっちの方に行った時のお知り合い…?」


この喋り方で違うって方が不思議だけど。


「ちゃうねん」


「えぇっ!?」


「まぁ、色々あってなぁ…
しばらくあっちの方に住んでたから、けっこう移ってんねんけど。でも、地元はこっちやで?せやからたまに変な関西弁使うねん」


…信じられません。
変なって言われても違い分かんないし…



「そんな疑いの目で見んといて~。
そんで色々あって、仕事探してたら桜介が呼んでくれたんよ。来たらもう桜介居らんかったけど」


「…すみません」


桜ちゃん、呼んどいて行方知れずとか…
いくらなんでも酷いのでは?