待ち合わせの河川敷。通学はいつも矢野とここで待ち合わせ。


あたしが矢野を追い越すと矢野があたしを追いかけてくる。それが日課。そして二人でどっちが早く学校に着くのか競争するんだ。


うん、今日も当たり前のように矢野を追い越せばいい。


視線の先に自転車を停めてあたしに手を振る矢野の姿が見えた。いつも通り片手を振ればいい。

それなのに、笑顔で矢野に手が振れない。ダメだ。目を逸らすと気づかれる。矢野はあたしのことになるとすぐ気がつくから気が抜けない。


矢野の横を通りすぎるとき一瞬も視線を逸らすことなく矢野を見つめ続けた。


矢野だ。あたしの好きな矢野だ。少し驚いた表情を見せてたけれど急いであたしの後ろを追いかけてくる。うん、何も気づかれていない。


良かった。片手でそっと胸元の指輪に触れる。絶対にこれだけは守る。


矢野とだけは離れたくない。


「おはよう、しぃ」


「・・・お、おはよ。あっ昨日はありがとう。指輪、気に入って今も肌身離さず持ってる」