一つを受け取り腕の中に抱えると、ふんわりといい香りがする。
香ばしくて、食欲をそそるバターの匂い。
「――パン、ですか?」
思わず尋ねると、
「うん。実はこの近くに超うまいベーカリーがあって、大ファンなんだよね」
御子柴さんはポケットから鍵を取り出し、ノブに差し込んだ。
ということは、今、この事務所の中には誰もいないんだろうか。
いいのか、そんなんで……。
と思ったけれど、私がサラリーマン時間に慣らされているだけなのかもしれない。
「イノシシちゃん、朝ご飯は食べた? よかったら一緒にどう?」
御子柴さんがにこやかに素敵なことを提案してきてくれた。
一緒にどうって!
やったー!
