「自分たちが売り出すミュージシャンは、やっぱり自分の目で見つけるべきだと思う……たとえ効率が悪くても、それがA&Rや、レコード会社の仕事だと思う。私は……だけど」
池中は唇を引き結んだまま、私の話を聞いていたけれど(いや、もしかしたら考え事をしていて聞いてなかったかも)そのままふらりと壁に寄りかかり、ぽつりとつぶやいた。
「そりゃ、景気のいい時代ならね……」
経費削減のため、コピー一枚だって、裏紙を使いましょうなんて言ってるこのご時世。確かに砂漠で金の粒を見つけるようなことなのかもしれない。
「ちょっと、これ以上じじむさいこと言わないでよ。とても一年目とは思えない発言だよ?」
「僕は誰かさんと違って、経営的視線で見てるからね」
そして彼は眼鏡の奥の瞳を細め、私を見下ろした。
「ただ、今回、お前が御子柴律のところに出向になって、僕がA&R部門に配属されたのは、そんな現状を打開したいという気持ちの表れかもしれないね」
どういう意味か教えてほしかったけれど、結局池中の気持ちの中で何かしら決着がついたのか、彼はそれ以上私に対して口を開かなかった。
――――……
