池中は相変わらず苦虫をかみつぶしたような表情のまま、手を放すと体の前で腕を組んだ。



「――まぁ、お前の程度の低い頭でもそのくらいは理解できるようだね」

「程度の低い……」

「だけどそれが、この十年くらいかな……お偉いさんには理解できなかった」

「――」

「でも、それを一概に責めることはできない。なぜならこの日本中にライブハウスはざっと把握できるだけでだいたい1000軒以上あって、大昔はそのライブハウスで数百人の客を呼べるバンドは、すぐにライブハウスを通じて業界のプロデューサーやディレクターに話が伝わっていたんだ。
ライブハウスが、アーティストを育てている一面があった。
けど、今は違う。アーティストにチケットノルマを課し、日々の稼ぎを得るのに精いっぱいなところがほとんどだ。
自分たちで、将来音楽業界を盛り上げていけるようなバンドを応援しようなんてところまで手が回らないんだよ。だから日本中のライブハウスを回って、スカウトしようなんて旧態依然なこと誰もやりたがらないし、効率が悪いから無駄だと思っている」

「そっか……」



そういわれれば、なんとなくわかるような気がした。

でも、それでいいとは思えなかった。