鏡が湯気で曇っている。そこにぼんやりと映る私の姿は、まるで今の私の心を現しているみたいだ。
──あぁ、嫌だ嫌だ。いつから私は、こんな弱い女になったのだろう。
形の無いものに囚われて前が見えない。"大丈夫"だなんて曖昧且つ不確かな言葉で拭い取れる程簡単な事じゃないんだ。
ぽろり。
視界が歪み不意に涙がこぼれた。嫌だ、これじゃあ本当に何も見えないじゃない!
止めようと試みるも溢れ出して止まらない。このままでは彼が来てしまう。‥仕方ない、涙でぐしゃぐしゃの顔はタオルで隠して、さっさと彼を風呂に入れてしまおう。
「お待たせ」
「今日は随分と長風呂だね」
「…体洗うの忘れてて」
無駄に察しの良い彼に気付かれない様精一杯の嘘。
「早くお風呂入ってきなよ」
「‥ねぇ」
そう一言聞こえた瞬間、抱きしめられた。少し離れた場所に居たのにどうして。
「そんな嘘で、僕を騙せるとでも思う?」
頭に乗せていたタオルがはらりと下に落ちて彼と視線がぶつかる。
「本当にわかりやすいなぁ。まぁ、何を考えているかは察しがつくよ」
優しく髪を梳く右手と力強く抱きしめる左手。それに熱と愛を感じた。
「何も恐れる事は無いよ。僕が付いているんだから。」
真っ直ぐ見詰められた瞳にははっきりと私が映っている。
何だ。確かなものは、こんなにも近くにあるじゃない。
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