◆ 本当に見張りは居なかった。 部屋から出て一階に降り、玄関から静かに別邸を抜け出した。心臓がドクンドクンと波打ち、少しお腹が痛い。 小雨が降ってきた。 けれど鶴来さんと鉢合わせする事もなく、あたしは霧が出てくる前に走り出す。 どんどん別邸が遠くなって行く。全てが遠くなっていく。 日向君の照れ臭そうなツンとした態度も、輔さんの嫌な笑顔も、鶴来さんの嘲笑う声も。 全部が遠い夢になっていく。