あたしは逃げ出す運命を待ちわびていた。 事故で鶴来さんに奪われた失われた日常を、ずっと取り戻したかった。取り戻さなきゃならなかった。 あたしの手首を痣がつくくらいに強く握り締めて、撫で回すように首筋から肩へ舌を這わせていく。 逃げる訳がない。逃げる気も湧かない。 ただ“これだけ”の事。これだけすればあたしは解放されるのだ。何て簡単な事。 「――ねえ」 ふと声をかけたあたしに、輔さんは反射的に顔を上げた。