「頭狂ってたけど、あの男の腕は確かだったわ。この子に代わって私が耐えれば元の綺麗な顔にしてあげられる。そう思ったんだけど、予想以上に男が手を出して来るのが早かった……」

仮面を外したヒツキの顔は、未だに目元の皮膚が垂れ固まっている箇所がある。

「私はこの子を傷付ける全てから守るって決めたの。だから息を荒立てて迫って来た男を殺した。この子を見つめる気持ち悪い両目を潰して、この子に触れた両手を砕いた。狂ったことを言う口を引き裂いて、腐った頭を踏み潰した。だから顔が未完成のまま逃げ出した」

萌の身に起きた悲劇を語りながらも、銃口が僕から逸れる事は無かった。

「なぜ……僕に連絡をしなかった」

「大好きな貴方にこんな顔見られたくなかったのよ、この子は」

「で……でも、助けてあげられたかもしれないだろ!?」

「警察である貴方に連絡すれば多くの人間が動き、多くの目にこの子は晒される。気持ち悪がられるのも、同情もこの子を傷付けるだけ」

怒りから拳銃を持つ右手が震えている。

「あの男を殺したのは私。この子に記憶が無くても世間は、この子が殺して逃げ出したと思うでしょ?覚えもないのに殺人者だと咎められる。私の役目はこの子が目を覚ます時、傷付かない世界を作ること」