騒がれたら困ると不安になりながら、帽子をかぶり直して振り返る。

「な、なにか……?」

「こ、これ……落としましたよ」

少し離れた所に立つ青年が差し出して来たのはポケットティッシュだった。

「あ、ありがとうございます」

反射的に礼を言い、歩み寄ってしまったが、落とす場面が無かった事に気が付く。

財布の出し入れはしたが、ポケットティッシュは鞄ではなく、コートのポケットに入れている。

左ポケットに手を入れると、ビニールの感触がした。

「あの、それ、私のじゃないです」

伸ばした手を引っ込めて、その手を違うという意味を込めて、顔の前で振って見せる。