俺は梓さんに背を向けて、歌姫の待つ2階へ上がった。

甘い香りが漂う廊下を歩き、『Hituki』と彫られたプレートが貼られた扉を見つける。

ゆっくりと歩み寄り、ドアノブに手を掛けた。

「遅かったわね」

上品に笑う仮面を付けたヒツキは、大きな天井付きのベッドに横たわり、こちらを見ていた。

ベッドの上のヒツキが何も身につけていないのが、白いレース越しに透けて見えた。

ゴクリと無意識に唾を飲み込んだ。

後ろ手に扉を閉め、ゆっくりと一歩一歩、ベッドの上で艶かしく微笑むヒツキに近付く。

廊下に漂っていた香りはこの部屋から発せられていたようだ。

おそらく、ベッドの横にあるアロマキャンドルからだろう。