「ええ。本当に大丈夫よ。優しいのね、火茂瀬さんって」 火茂瀬は鼻の下を伸ばしている。 「マキハラさん、ありがと」 ヒツキは空になったグラスをマスターに返し、席を立つ。 「それじゃぁ。お2人とも、ごゆっくり」 「ゆっくり休みな」 マスターはヒツキから受け取ったグラスを洗い始めた。 ヒツキは恐ろしいほど踵の高い黒のパンプスをカツカツ鳴らしながら、何処かへ行ってしまった。 一度だけ僕らの方に振り返ってウィンクをした。 僕にしていないのは確かだ。