火茂瀬が前に聞きそびれていた事だ。

「楽しい話じゃないぞ?」

僕はアクセルを踏み込む足の力を緩めながら、横目で火茂瀬を見る。

「そんなの解ってますよ」

苦笑いを浮かべる火茂瀬の顔が視界の端に映る。

「ハハ……そうだよな。楽しい過去なら執行人になる必要はない、な」

信号が赤になったので、車を止める。

「俺も……彼女がキッカケ、なんだ」

やり直したいと何度も願った苦しい過去を、ゆっくりと思い出す。

「結婚する、予定だった彼女が……」

一言一言、発する口が重い。

だけど、僕は誰にも話した事のない過去を火茂瀬に話す事にした。