一人で百面相をしている薫に怪訝そうな目を向けながら、藍生は髪をいじる手を止めた。
そして、どこか遠くを見るような目をしてボソリと呟く。
「お前も、あいつと同じことを言うんだな」
「……え?」
藍生の呟きを拾うことが出来ずに間抜けな声をあげた薫だが、後ろから幸に名前を叫ばれて振り返る。
訓練場の柵の向こう側で、幸がぶんぶんと手を振っていた。特に用があるわけでも無さそうである。
「幸さんは、この大変な時代に似合わないほど笑顔の絶えない人ですよね」
薫は眩しいほどの笑顔を見せる幸を見ながら、相変わらず無表情の藍生に言った。藍生は「そうだな」と相槌を打って、薫と同じように幸の方を見る。
「あいつはそうすることでしか、自分を保つことが出来ない」
「…どういうことですか」
「研究員だからとはいえ、戦闘に駆り出されないわけではない。あいつはたくさんの仲間の死を見てる。だからこそ別人類の生態を知り、勝利への道を探り続けてんだ」
幸が部下の一人に窘められながら仕事に戻っていくのを視線の端でとらえ、薫は藍生の言葉を待った。
「いつ誰が死んでもおかしくない時代だからな。いつ死んでも後悔が残らないように、刹那的な楽しさを精一杯味わっていくしかないんだよ」


