薫は背中の痛みで目を覚ました。
固くて寝心地の悪いベッドに横たわっていることに気が付いて、自分が改めて未来の世界にやってきたことを実感した。
空は相変わらず重たい雲に覆われ、朝なのか夜なのか、その時間の経過を窺い知るのは難しい。
その時、部屋のドアがノックされた。
「おはよう。もうすぐ朝ご飯なんだけど、体は大丈夫?」
ドアを開けて控えめに部屋を覗き込んできたのは昨日額の傷を手当てしてくれた奈々子(ななこ)であった。
肩の上で綺麗に切りそろえられた髪が、首の些細な動きとともに揺れる。
薫はそれを寝ぼけ半分で見ながら、「うん」と小さく頷いた。
共同の洗面所に行くと、若い青年が髭を剃っていた。薫は顔を洗ってから軽く挨拶を交わす。
「おはようございます」
「おう。お前、別人類の気配がわかるって奴だろ?調子はどうだ?」
「今は何も感じないんで大丈夫かと」
薫が別人類を感知するということは、先日の戦闘時に兵士たちに知らされた。だからこそ、この争いに重要な役割を果たすことになるだろうということも、周りの兵士は知っている。
周りの好奇の目線は正直いい気分はしなかったが、薫の気がかりはそこではなかった。
(藍生さん…)
薫の頭からは、藍生のあの切なげな表情が離れなくなっていた。
自分を化け物だと称したその時の、何処か諦めにも似た表情。
二度と、あんな顔をさせてはいけないと感じると同時に、何故薫自身が藍生のことをこんなに気にしているのだと不思議な気持であった。


