ア オ イ




薫は額の傷の痛みも忘れ、目の前に圧倒的な存在感を放つ別人類を見上げた。

身長はゆうに5メートルを超えているであろう、甲虫のように固く黒光りした皮膚に覆われ、人間のような、しかし大きく発達した頭が屈強な身体にちょこんと乗っかっている。

濁った眼球は物をとらえているのか、しきりにあたりをきょろきょろと見回している。

太い手足は人間のそれのように、五本の指らしきものを備えていた。


――薫は直感した。

これは、あの荒廃した世界で生き抜くために生まれた新たな人類の姿であり、現在の生態系の頂点に君臨する生物であるということを。


「う、うわあああ!!」


やや遅れて、市民の悲鳴が上がった。

それを皮切りに、あたりが騒然とする。

突如現れたその別人類は、近くにいた子どもを片手でひょいと持ち上げて、子どもが泣き叫んで暴れるのも構わずにそのまま大きく口を開けると、

ゴクリ

とわざとらしく音を立てて、丸呑みした。


「い、いやあああ!!」


母親なのだろうか、女性が半狂乱になって叫ぶ。

別人類はその女性にも手を伸ばした。しかし、その手が届くことは無く、ぼとりと地面に落下した。


「え…?」