居心地悪そうに俯く薫の様子を察してか、幸が再び口を開いた。
「この国は、基本的に私たち軍隊が第一だからね。私たちが別人類を完全に滅ぼすまでは、国民は私たちを敬う必要があるのさ。天皇の次にね」
「…なんだか、昔の話みたいですね。俺の時代は、天皇は国民の象徴として扱われていたんですけど。何の権限もなく、置物みたいに…」
「それでも、君の時代に憲法改正が行われて、結局は戦争に手を出してしまったんでしょ?利益を追求するあまり、人類は大きく選択を間違えたのさ」
「…そういう、ことなんでしょうね」
薫は、自分が生きていた時代はまだ“平和”であったはずだと思い起こす。
いじめや殺人、窃盗のニュースは日々絶えなかったが、自分が死と隣り合わせの生活を送っていたかと聞かれると、その答えは間違いなくノーであった。
この街の住民は、誰もがこちらを遠巻きに見ている。
全てが人工的に作られたこの街で、彼らは“平和”を享受している。
「今日はこのドームの点検と、駐在の兵士の様子を見に来たんだ。薫君は私たちから離れないようにね」
道とかわかんないでしょ?と幸は笑った。
薫は黙ってうなずいた。
――その時だった。
何か獣の咆哮のような音が聞こえたかと思うと、突然コンクリートの破片がものすごい爆風とともに飛んできた。
「!?」
薫は思わずその場に倒れる。飛び散ったコンクリート片が額を掠め、血が滲んだ。
幸も突然のことに目を見開いている。
「おいおい…まさかでしょ」
目の前には、以前窓越しに見たあの化け物が居た。


