「は…?」
薫は思わず呆けて固まってしまった。
まさか、こんな訳のわからない世界で命の危険に晒されようとは。
そもそも、自分はもとの世界に戻れるのだろうか、しかも車に轢かれてたぞ、と薫の頭は再び思考の渦に沈む。
その時、一際室内がざわめいた。
振り返ると、背筋を伸ばして歩く藍生が居た。薫は何となくその姿を目で追ってしまう。
ふわりとした髪が頭の高い位置で一まとめにされて揺れている。
切れ長の目は、真っ直ぐに前を向いている。
綺麗だと、思った。
「何見てやがる」
「へ!?あ、い、いや…」
まさか見惚れていたのか、と薫自身も自分のよくわからない行動に慌ててしまう。そもそも、藍生は男ではないか、と薫は自分に言い聞かせた。
「お前、少しはここに馴染めるように自分で工夫しろ。何でもかんでも世話など焼かんぞ」
「は、はい…」
冷たく突き放され、薫はしょんぼりと項垂れてしまう。すると、すかさず幸のフォローが入った。
「ああ見えて良い奴だからさ。嫌いになんないで上げてよ」
「むしろ俺が嫌われてんじゃないですかね、あれ…」
薫はガクリ、と肩を落とした。


