一瞬、場が静まり返った。

何のこと?事故のことも思い出せないし…

「ねえ、頭打って、記憶が…飛んじゃったとか?」

さこがおそるおそる言う。

「でも、市田くんのことはわかるよ。優等生で、クラスのリーダー的存在で…」

「真理、一度、医者に診てもらいなよ。いや、あんたがおかしいって言ってるんじゃなくて
いろいろあったわけだし…頭打って、記憶なくなるとかベターな話じゃん?」

「うん…詳しく話してみる」

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「事故の事も思い出せないんですよね?」

「はい…」

「外傷性健忘です。頭を強打したことによる後遺症でしょうか…。とにかく、自然に回復するのを待つしかないですね」

「先生、私は記憶を取り戻せるんでしょうか?」

「一部の記憶だけ、と失った記憶が少ないのでもとの状態になることも十分ありえますが
あまり、無理に思い出そうとしたり、自分を追い詰めないようにしてください」

「はい、わかりました…」

ってことは…やっぱり私は記憶を失っているってこと…?

市田くんが私の…?もうホントにわけがわからない…

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「…!内山…っ」

ハァハァと息を切らせながら、市田くんが病室に入ってきた。

さっき、うみとさこが言ってたこと、

ホントなんだよね…?

「あのね…市田く…」

「ごめんな、親の手伝いしてたら遅れた!意識、戻ってよかった…」

息を切らしながら笑う市田くん。

その笑顔に、記憶をなくす前の私なら

答えられたかな?

「あ、あの。私、記憶がなくなってて…その…」

「市田くんのこと覚えてないの…」

市田くんは、とびっきり驚いた顔をしてから言った。

「え、ほら。俺だよ。クラスで学級委員しててー意外と真面目でー
男のくせにカマキリが苦手な、市田だよ。俺ら、1週間前に付き合ったじゃん…」

「いや、ごめん市田くんのことは覚えてる。でも、付き合ってるとかそういうのは全然…知らなくて。私、事故の時のことも覚えてないの」

黙る市田くん。少しさみしそうな顔をした気がした。

なんで…私、そんな重要なこと、忘れちゃったんだろう…。

市田くんを、傷つけちゃった…。