兄が私の肩をトンと叩く。


そこで、はっと意識を取り戻した気がした。


顔を上げたら、兄は私に微笑みかけた。

いつもの、少し気弱げな優しい笑み。


兄の笑みがライバルに向けるそれではなかったことに、ほっとした。



兄と母は率先して室外へ出て行った。


お客様たちの見送りをするために。



私も、見送りの列に並び、客人たちに頭を下げる。


横にいる母と目が合わないよううつむき加減でお見送りをした。


母は、私が家を継ぐことには反対している。



どんな顔をすれば良いかわからなかったし、母が私をどんな目で見ているのか、怖いような気がして母の顔を見ることができなかった。



母は、父が私を推したこと、事前に了承済みだったのかしら。


そもそも、父が私を推すなんて、やはり私の聞き間違いだったのでは?という気さえしてきたわ。



だけど……



帰る人たち全員が私を凝視していく。


明らかに、兄より私に注目しているように思えた。


驚き、敵意、好奇…


彼らの視線がどれに値するのか、分からなかった。


ただ、品定めをされているのは確実。



父の言葉は聞き間違いではなかった。



そう実感した瞬間、突如ゾクゾクとした感覚に襲われた。


―――意外だった。



色んな思いの渦巻く視線を一身に浴びて、それは、恐怖などではなくて、快感とも思えるような不思議な感覚だったから。


こんな気持ちになるなんて。



闘っていくんだ、この私も。


茅の外なんかじゃない。最前線で。



この家にいて、私はようやく居場所を得たのだ。