我妻教育〜番外編〜

「…い、いえ…そこまでは…」


口ごもった。

肯定しているようなものだ。



やっぱりな、と兄は笑った。


「彼女ってな、良く言えばおおらかな人なんだ。
悪く言えば、ズボラっていうのかな。

だから一緒にいて楽だった。

仕事のことを一切考えなくて良かったから。

そのままでいれれば、そのままでいたんだと思う。

子どもができなければ。

子どもができたことで状況が変わったんだ。

彼女と結婚するしないに関わらず、少なくとも今、小百合さんと結婚する訳にはいかなくなったんだ。

…それで、どうしたらいいか分からなくなって、逃げてしまった」


首をすぼめて、申し訳なさそうに顔を歪めた。


ひ弱な見た目の兄が、益々弱々しく見える。



「どうしたらいいか分からないからって逃げるなんて、無責任ではありませんか!

そのせいで、小百合さんがどれだけ傷ついたか…」


これは兄の問題で、私が偉そうに口を出すことではないのに、ついキツい口調になってしまった。



兄は口元を引き締め、素直にうなずいた。


「…だよな。俺は、無責任で、卑怯だ。

小百合さんを追い詰めてしまった。

本当に申し訳なく思ってる。

自分がしたことの責任は取るつもりだ」


言いながら片腕をさすった。


小百合さんに刺されたという部位かしら…。

思わず息をのんだ。



「ただ、俺は、子どもの為にも働かなきゃならないんだよな。

だから、帰ってきた。

どのツラ下げてって感じだけど」