我妻教育〜番外編〜

多忙な両親と兄は、あまり見舞いには来てくれなかった。



ほとんど母親代わりといってよいくらい親しい使用人や、当時学生だった姉は、ほぼ毎日来てくれていた。


マナーを重んじる姉は、病院内では静かだった(もちろんそれが当たり前なのだけど)。



孝さまが来ると違った。


周囲まで巻き込んで、場を明るくしてくれた。


場だけではなく、私の心も。



誕生日なのに、検査の結果が良くならなくて外泊許可をギリギリで取り消された。



むくれる私に、孝さまがしてくれた。


人差し指で優しくトントンと、私の眉間に触れる。


眉間の力を抜いて。

思いつめたりしないで。

元気出して。


『何でも話していいよ。

オレの前で我慢しなくていいんだからな』



幼稚舎の遠足に行けなかった。

運動会に出られなかった。

熱が出て、また退院が延期になった。



『ほら、笑って』と、トントン。


辛い気持ちになるたび、孝さまが、私にしてくれた。



元気になれる、おまじない。


私たちだけの秘密の合図。