「…で?」

 柏原社長が出て行ったあと、その横に突っ立ったままだった凌はぐるりと蒼居を見下ろした。

 イスに座ったままうっすらと笑みを浮かべる蒼居は、凌の方を見ようともしない。

「…なんかいろいろ聞いちゃったんだが、俺はどうしたらいいんだ?」

 わずかな沈黙。

 そして、ゆっくりと蒼居は凌を見上げた。

「…付き合わせたのは謝罪しよう」

「…をい」

 ―――まさか。

 開きかけた凌の口を、その前に蒼居が制した。

「記憶は消すから安心してくれ」

「だからな!」

「えぇ!凌は参加しないの!?」

 凌の隣りで負けず劣らず声を上げたのはこずえだった。

「…こず」

 呆れたように蒼居はこずえに視線を向ける。

「彼は無関係だぞ」

「あら、ここまで聞かせといて?」

「だから記憶を消すと言ってる!」

 言い争いを始めた二人を唖然と見ていた凌は、我に返って二人の前で慌てて手を振った。

「ちょ、ちょーっとストップ!話が全く分かんないんだけど!」

『黙ってろ(て)!』

 間髪入れず二人に同時で言われ、凌は言葉に詰まる。

 そのまま言い争いを再開し始めた二人にワンカウント遅れてカチンときた。

 すう、と息を吸う。

 近くにあったのは小さなイス。

 何も考えず、凌はそれに拳を振り上げた。


 ゴッガコンガッラッシャン。


 破壊音の後の崩壊音に、蒼居とこずえは振り向く。

 そして、言葉を失って目を見開いた。

 目に映るのは、無残にもガラクタとなったイスと、無表情の凌。




「…聞け」

『…はい』