カラン、と軽いドアベルが鳴る。

 そんなのが付いていたのかと驚いて顔を上げた。

 開いた扉のその先。

 帽子を被った老人が一人。

「…ふむ」

 紳士的帽子を取り、胸に添えてわずかな笑み。

「…樹木屋は、ここでよろしいのかな?」

「ええ、お待ちしておりました」

 その言葉で、凌はようやくここが店だと言うことを理解して。

「では、君がなんでも屋かね」

「ええ、蒼居…と申します」

 そこでようやく、男の名を知った。

 続くように聞こえたのは、さっきも聞いた一言。

「ようこそ、樹木屋へ」




「依頼というのは…」

 老人が話し始めたのを皮切りに、凌は蒼居の後ろにそろりと回る。

 透明な少女が軽くこいこいと手招きしている姿に近寄った。

「こっち」

 手を引っ張られる感覚に素直に付いて行ってみる。

 そこは簡易の台所。

「お茶、私持っていけないのよね。お願いできる?」

「まあ、その姿だからな」

 少女に軽く相槌を打ち、凌はコーヒーフィルターを取り出す。

「…で」

 ちらりと視線を向ければ、不思議そうに首を傾げる少女。

「君は、なんなんだ?」

「私は蒼居の守護者。こずえよ」

「幽霊…」

 言いかけた瞬間、頭の上にお盆が落下した。

「ッた!」

「うふふ、二度とそんな風に言わないでね」

 指をくるりと回すこずえに思わず深く頷いて、熱湯をゆっくり注ぎ入れる。

 お湯で温めたカップを用意し、頭に落下したお盆の上に乗せるとちらりとこずえを見た。

「行きましょう」

 微笑んだこずえがふわりと寄り添う。

 肩に乗るような状態で、呼吸を一つ。

 凌はゆっくりと歩き出した。