会議室でお弁当を食べる女子社員が二人。
話す内容はやはり噂話。
「でさ、課長が佳織を食事に誘ったらしいわよ」
「マジで?じゃあとうとう毒牙にかかるかあ」
「でもあの事件もあるのにあの課長、良く浮気に精を出せるよね」
女性社員の死角。
ボードを挟んで反対側に、座っていた凌は缶コーヒーを片手にぴくりと眉を上げた。
「…でさ、最近あの資料室前の廊下。みんな通りたくないって」
「そりゃそうよ。真弓が見たんでしょ、佐伯くんが壁に飲み込まれるの」
「…ああ、企画部の」
こずえの手が肩に触れたのを感じ、凌は小さく頷いた。
「あ、やば!こんな時間!」
「うっそ!お化粧直してないよ!?」
「早く早く!」
バタバタと走り去って行く女性社員たちを息を殺して見送ってから、凌はゆっくりと息を吐いた。
こずえが驚いてこっちを見つめる姿ににっこり笑って。
「さて、はじめますか」
社長は目の前に立つ男をまじまじと見つめる。
「…蒼居くん、すまんがもう一度言ってくれないか?」
「ええ、犯人はこの会社みたいです」
今度こそ柏原社長はぽかんとした。
「言葉が足りませんでしたね。正確に言うと、この会社を守っている存在というべきでしょうか」
こずえから流れてくる情報ににやりとして。
蒼居はゆっくりと窓の外を見た。
「そこで相談というか、お聞きしたいのですが…」
―――それにしても。
「この社内に、昔…百年単位で大切にされているなにかはありますか?」
―――さっきから、じわじわと魔力を感じるのは何故だ?
蒼居は軽く首を振り、すぐに違和感を打ち消した。
気のせいだと、思い込むつもりで。



