「あれ、そういやこずえ…サンは?」

「…こずえでいいと思うよ。というか俺は呼び捨てでこずえはさん付けか」

「…いやなんとなく」

 苦笑にも似た小さな溜め息。

「こずには先に行ってもらった。こずみたいな方が偵察には持ってこいだからね」

「ああ、なるほど」

 確かに、こずえなら怪しまれずにいろんなところへ行ける。

 ふと車は赤信号で音もなく止まった。

「…で、だ。今回凌にやってもらうことだけど」

 ゆっくりと、穏やかに話す蒼居とは対照的に、凌はごくりと喉を鳴らした。

「凌には、こずと行動してもらう。ちなみに、社員証を手配してあるから、いざと言う時はそれ使って」

 こずは聞き込みに向いていないんだ。

 と小さく付け足した蒼居に凌は小さく頷いた。

 そして青信号に変わり、車は穏やかに走り出す。

「…ちなみに」

 くすりと蒼居は前を向いたまま笑った。

「そんな緊張しなくても大丈夫。今回は多分難しくない」

「…悪かったな。結構小心者で」

 む、と表情を強張らせた凌に蒼居は首を振った。

「君は結構大胆だよ。俺が保障する」

「うわぜってー褒めてねーだろソレ」

「最大限の賛辞なんだがな。あ、見えてきた」

 目指す先にはかなり大きなビル。

 KICという文字が見えた。

「柏原社長は?」

「多分まだ社内だな。それは俺が行く。凌は…」

 そこで一度言葉を止め、するりと地下駐車場へ入っていく。

 メモを見ながら車を止めてガコンと蒼居はギアを引いた。

「…さて。こず、聞こえるか?」

「はあい!」

 突然後部座席にこずえが現れた。

「うおわッ!」

「いやん、いい反応」

 はあとマークつきでこずえが凌の横にふわりと姿を見せる。

「こず、凌を頼む」

「らじゃりました!」

「…ら、らじゃ?」

「凌、こずの言うことちゃんと聞けよ」

 ぽん、と頭に手を乗せられた。

 途端に口から出たのは。

「っ子供扱いすんなーッ!」

「はいはい」