「なあ、ルニア」
お城に着いて、落ち着くと。
イヴが両手首を掴んだ。
「あ、あの…」
「少しの間、目を閉じてくれ」
「…うん」
目を閉じて、虚無の空間に身体を預ける。
手首の温もりが、全身を駆け巡って火照りはじめた。
目を閉じると、音に敏感になる。
衣擦れの音、吐息。
光の明暗を感じる。
明るかった部屋の、影。
どんどん濃くなっていく、影。
混じり合う空気の乱れは、私の心拍数をさらに上げた。
あつい。
重なり合う身体、触れる唇。
背中に回された腕、深くなる口付け。
行き場を失った手は、宙を彷徨う。
「……んっ」
時の流れを感じなくなった時、イヴがそっと離れた。
その瞳には私が映っていて。
口は悪いけど、優しい笑みを浮かべた私の王子様。
遠い存在だったはずなのに、こんなに近くにいる。
私をずっと応援してくれていたネロリア、イヴと話すきっかけをくれたリザニアさん、婚約を許してくれた王様、婚約を自分のことのように喜んでくれた夫人。
嬉しかった、ただ純粋に。
頑張ろうと思った、これからも。
また、全身に温もりを感じた。
締め付けられる身体は自由を無くしているはずなのに、心地いい。
すごく安心する、イヴの香り。
「ルニア、愛してる」
-fin-