大好きだった祖父が死んでから、
私は毎日図書館へ行くようになった。



小さい頃から鍵っ子だった私にとって、
祖父は ” たった一つの居場所 ” だった。


両親は,出来る兄にばかり目を向けて、
出来損ないの私には耳を傾けることもしてはくれなかった。




瀬戸 夏生。 私は今年で15になる。
今は夏。 夏休み真っ只中だ。


「 また今日も図書館? 」
「 うん。 」
「 遅くならないでね。」
「 わかってる。」

祖父の葬式以来、
母と会話の数は、激減していった。


図書館は、
祖父の家みたいですごく好きな場所。
静かで自分を消される事が無い。
ふわふわしてて。

そんな毎日の中、
私はヒカリを見つけた。
そんなヒカリと友達になるなんて、
この時全然思っていなかった。



「 こんにちは。 」
「 ‥ ? 」
「 急に話かけてごめん。隣、いい?」
「 ぁ、 どうぞ。 」
もう何度も見つめた姿だった。
「 いっつも来てるよね? 」
「 うん、毎日いる。 」
「 そうなんだ! 僕も最近いるんだ。」
「 知ってる。」
そう言ったすぐ後、私は後悔した。
なんでそんなこといったの‥!



「 君に話しかけようと思って。気づいてもらえてたんなら良かった。」
「 ‥っふ 」
「 あーっ!今笑った? 」
「 笑ってないよ‥っ‥。」
「 ほっぺあがってる。 ‥ねぇ名前は?
友達なろうよ! 」
「 瀬戸夏生。 そっちは?」
「 びっくりだ。 渡部 夏樹。」
ーーナツキ。
「 ね? びっくり。 夏生って呼んでいいかな? 」
「 うん。いーよ、夏樹。 」
明るくて美形で優しい夏樹と、
仲良くなるのに時間は必要なかった。



一緒にいるようになって夏休みが終わり学校が案外近く会う回数は減ったものの
連絡は毎日とっていた。

「 夏生って彼氏いないの? 」
「 いないよー。夏樹は? 」
「 彼氏はいないよ。」
「 彼氏って、夏樹は男でしょ! 」
「 彼女、 夏生でしょ? 」
夏樹の言葉に私は声も出なかった。


「 好きなんだよ。 夏生が。」
「 ‥ぇ、‥。 」
「 ‥‥。 」
「 そんなんいわなくていい。私の気持ち知ってるでしょ? 」
「 夏生。 」
初めて好きな人が出来て、
初めて彼氏が出来た。
夏を過ぎた頃だった。


ある日、夏樹と会った図書館の帰り、
家の電気が一つもついていなかった。
鍵は空いている。

「 なにしてんの? 」
中に2人、暗い中椅子に座っていた。
「 あんたがいるから勉強ができないってお兄ちゃん言ってるのよ!? 勉強もせずなにをしてるの!? 」
私が口を開く前に母は続けた。
「 受験生に対する心構えもないの、?」
変わってない。
お兄ちゃんしか見てない母。


私なんて要らないじゃない。

部屋にかけあがって、必要な荷物を持ちすぐに家を出た。
ここは私の場所じゃない。
私の存在する価値が無い。


『 もしもし? 』
『 もしもし夏生⁉ mail今見た‼ なんで家出したの‥。また母さん?』
夏樹から電話が来たのは、
mailしてからすぐだった。
『 うん‥。 』
『 今どこ? 僕の家きなよ! 今家誰も居ないし泊まりな!迎えに行く!』
『 いや、遅いし危ないよ! 私は大丈夫だか‥、』
『 僕が嫌だから。どこ? 』
『 ○○。』
『 動かないで! 今すぐいく!』
泣いてしまうと思った。
声がきけただけで。

夏樹は十分もかからずすぐにきた。
息を切らしながら自転車を放り投げ、
私を抱きしめた。
「 大丈夫? ‥っ、はぁ‥。 」
「 夏樹‥‥ 」
「 頼りないけど彼氏だよ? 頼って。好きなコ守れないなんてダメじゃん?」

私は本当にこの声で救われて。

目の前が明るくなったの。



続く