あたし達の借金は2年で、やっと返し終わった。


その頃には、守が築きたかった“家庭”というものが、ちゃんとそこにあった



それでも、あたしは働き続けていた



感情のいらないこの仕事に………





――――――――――



「伊織チャンってさ、忘れられない男とかいる?」


伊織―――


流奈の源氏名。


そんな、お客サンの言葉に一瞬だけ息苦しくなる。



「……いるよ」



そう、笑顔で返すあたしの心の中では翼の名前を呟いていた


「どんな男なんだろ、伊織チャンが本気になる男って」


「翼って言う名前だったんだ!!かっこいいでしょ☆」


「ばかじゃん☆聞いてねぇ~!!」


「聞かれてなぁい!!アハハハハッ!!」



消したくない………


消えて欲しくない。


翼という存在が………。



この世の中にいたっていう、翼の存在を。



夜寝る時に……


店に居る時にだって、


何処にいても、頭の中に突然現れるんだ。



そして、その度にあの写真の中の悲しい顔しか浮かんでこない。




あたしが、思い出す翼の顔は



あの悲しそうな写真の中の翼だった。