紺色のスーツは思ったほど地味すぎもしなかった。華やかなワンピースの中にいると菅生さんのスーツ姿がかえって色っぽいくらいだな、と湖山は思う。

ブーケトスに備えた若い面々が群がるのを見守る二人は物静かに、何かを諦めたことすら忘れた、という顔をしているけれど、本当はそこにいる誰よりも諦めていない。それを、この教会に立つマリア様はきっとご存知だ。

教会の扉が開く。真っ白いタキシードに長身を包んだ大沢が真面目な面持ちで花弁とライスシャワーの中に一足踏み出した時、湖山はありったけの声で叫んだ。

「オーサワーーーーーー!!!!!!!!!
おめでとーーーーーーーーーーーーーおぉ!!!!!」

湖山を探す目が不安そうに細くなる。眉根が深くなって、どこか、憤ったような表情で大沢は声が聞こえた方を必死に湖山を探しているのに見つけることができないようだった。

湖山は大沢が自分を探しているのを知っていて手を挙げたりもしない。自分を探している大沢を見ていたかった。

花嫁が投げたブーケが、大きな弧を描いて、わぁと一際大きな歓声が上がる。湖山と菅生さんはブーケが飛んだ空を見ていた。もう直ぐ冬が来る。

「行こうか」
「そうね・・・」

大沢が帰ってきたら、この際はっきり言っておきたい事がある。

   夢があるんだよ。ずっといい仕事をして行きたいから、大沢くん、ずっと俺の助手やってよ?



終わり