あれから一切、進展も何もなかった。

「待ち続けるだけ、無駄じゃない?」
周りはそう言う。

でも私はそんなことをちっとも考えたことも思ったこともない。
夏向にすべて捧げたんだもん。


諦めたりするはずもないでしょ?


月日が経っても私に心は変わらなかった。
そして、悲しい偶然というのも初めて知った。
こんなカタチで会いたくなんてなかった…。

私は病院にいた。お腹の赤ちゃんのことで。
今日の病院は、すごく人数も多く、
受付をしてからも数時間、待たされそうな感じだった。
マスクをして白い制服を着ている人が走っていた。

『緊急です!』

そう話かけながら全力疾走してた。
私は黙ってその様子を見ていた。
診察も終わって、受付のロビーで私は座っていた。

「ピィーポーピィーポー」
「救急車だ」

心の中でつぶやく。

『避けて!』

そう皆は急いでいた。そして慌てていた。
運ばれてきた人は意識不明状態。
その人は見覚えのある人だった。

『夏向…?え…かな…た…』

私は涙が溢れ出した。
急いで、私は夏向の元へ駆けつけた。
夏向は目をつぶっていて、何も話したり反応したりしてなかった。
そして所々に血がついていた。

『夏向。夏向はどうしたんですか…!?』
『君は下がってて。』
『私、この人の彼女なんです』
『そうだったのか、この人ね交通事故だよ』
『どこで!?』
『交差点で。 居眠り運転だって』
『なんで…』
『家の部屋にはたくさんのお酒の空があったみたいですよ』
『変わっちゃったんだ…』

私は言葉を失った。
夏向が…こんなにも傷ついて…
こんなにも…みんなと会えない状態になっていたこと…。
頭が真っ白になった。
足も何故か、もたつく。
立っていられず、力が抜けるようにしゃがみこみ
大きな声を出してしまった。

『イヤーッ』

すぐに看護師が駆けつけた。

『大丈夫ですか?どうしたんですか?』
『か…夏向が…。』

私は震える身体で指を夏向の方へ指した。
泣き叫ぶことしかできなかった。

心のそこから泣けた。

泣くほかに何もなかった。
夏向に目を覚ましてほしい。今すぐ。
焦る気持ちが言葉をでなくさせていた。

私が落ち着いた頃にはもう、
夏向も、もう集中治療室へ移動していた。
夏向のママとパパもいて、
私は深くお辞儀をして夏向の元へと
一歩ずつ近づいていった。
硝子張りになっている境目までしかいけず、
その硝子に両手が触れた。
夏向は背筋をピンと伸ばしたように
綺麗に横に寝ていた。

『夏向は今、危険な状態だって。』

夏向のママがそう言う。

『生きていますよね…!?』
『うん。』

自分の息が苦しくなってくるのが、
自分でも明確にわかった。
心も苦しかった。涙だらけの人生に汗も出なかった。

…夏向は今を見ているのかな…?

そんなことは夏向自身にしか、わからなかった。
早く、目を覚まして私の顔を見て欲しい…。
ママやパパの顔も見て欲しい…。
苦しくてすごく泣きたいのは私だけじゃない。
そう小さく思っていても何故か、強くなれた。


『愛してるよ。夏向。』


涙ながらに言ったのは初めてだった。
この声は今、届いてますか…?
初めてだよ…心で泣いて枯れたのは。