「そっか。…それは辛いな。」
「まぁ、気にしてなかったんだけどね。ただ、唯人君の優しい手が…少し、真衣ちゃんを思い出させちゃったかな、って。」

へへへ、って笑ってみせる。

「ごめんね、こんな暗い話してっ。」
そう言って立ち上がる。
遠くに見える時計は、もうすぐ12時50分になる。
授業が始まる時間だ。

「戻らなくちゃ。次、なんだっけ?数学だっけ?」
暗い雰囲気をふきとばそうと、へらへら笑う。

「…。」

「え!?」
急に腕をひかれ、座らされる。

唯人君は掴んだ腕を、離さず…。
ふいっと顔を向こう側に向ける。
顔が見えない。

「え、えと、唯人君?」
「…掃除サボってんだ、もういいだろ。…つーか。」

そういうとこっちを向いて

「無理して笑わなくていいから。暗い話でも、なんでも聞くから。聞くだけだったら、…できるから。」


…。
時が止まった気がした。


それからの2人は、何も話さず、何も動かず、時にまかせてただ静かに黙っていた。




掴んだ腕は、ずっと離れなかった。