そこから立って話をした。
移動する雰囲気でもなかった。


「あ、あの。」
桜木さんが口を開く。

「やっぱり…メロンパン、追いかけてるんだね。」


「…だから何?」
あ、少し強めになってしまった。


「ゆ、唯人くんの迷惑になるからっ…。」

「…そこまで心配しなくてもいいと思うよ。」


不安げな彼女にそう言う。


「唯人君は傷つけてはいけない人なの?迷惑をかけてはいけない人なの?…彼だって一人の人間なんだから。特別扱いする必要はないと思うよ。」

「…本当に好きなら、迷惑なんてかけたくないじゃない。」

少し反抗するように、桜木さんが言う。



「それがあなたの愛のカタチでも、私の愛のカタチは遠慮することじゃなくてぶつかる事なの。あなたの感情はこの世界の全てじゃないんだよ。私は私なりに真剣に彼を愛しているから。」

「ッ…。」

ごめんね杏、ちょっとパクった。

「それにね。」

最後にもう一つ。

「あなたはもう唯人君から卒業したんでしょ?」

「…そ、卒業…。」

「彼の事はもう諦めるんでしょう?」

「…うん。」

「じゃぁ…、口はもう出さないで?彼の幸せを望むんなら、自分が幸せにしてみせるという勢いでもう一度片想い始めたら…どう?」


そう言って、ニコッと笑ってみると、彼女は少し悔しそうな顔をした。

そんな顔も可愛いなんて、本当ずるいな。



「じゃぁね!」

爽やかに去る。
心の中では
『もう特売行かないとヤバイ!!』…。



「に、新島さん!!!」

彼女の声が聞こえる。



「あたし!…ちゃ、ちゃんと卒業するよ!!あたしなりの愛のカタチを貫いてみる!!彼から答えはもう聞いたから…だから…。」

彼女は少しうつむいた。
泣いているように見えた。

「だから!!また、新しい恋を頑張るよ!!」


ニコッ!
そう笑った彼女は

「…やっぱり、ずるい。」


今までで一番可愛かった。