14



カルボナーラが私の目の前に来たので、スプーンとフォークを手にした。


「え、何? もしかしてパスタ食うのにスプーン使う派? おハイソな人だなこの人は」

「ほっといてよ。 これが一番食べやすいんだもん」

「っていうか僕のチーズケーキ食ったよねさっき」

「今その話してた?」

「チーズケーキ返せよ」

「吐いてもいいなら」

「汚ねぇよ」


パスタを数本フォークで取り、スプーンの上でクルクル丸めて口に運んだ。


「うん、美味しい」

「チーズケーキも美味しかっただろ?」

「嫌な奴だなぁ」


卑屈な調子で、カウンターの上にあるケーキが乗っていた皿をコツコツと指先で叩く相楽。 いじけたその表情が可愛いと思ったけど、何も顔や行動に出さなかった。

この人の事が好きだけど、私には函南くんが居る。 彼を悲しませるような事はしたくないから、この人とは必要以上に接近したら駄目だ。


だって、接近しても叶わない。
この人には“恵美”っていう人が居る。 きっとそれは恋人なんだと思う。 好きって言っても意味が無い。


「お前さ、あのテレビに出まくりの父親とは本当に仲良しなの?」

「何さ突然。 誰から聞いたの? 超キモい」


適当に答えて、パスタを一口食べた。

「おい」相楽の声が低くなった。 眉間にシワを寄せ、怒った顔をしている。 少し怖いと思った。


「真剣に訊いてんだけど」

「…………関係あるの?」

「まあ、そりゃ無いけどさ」

「じゃあ訊かないでいいじゃん」


そう言ったはいいが、内心は沢山話を聞いて欲しい気持ちでいっぱいだった。 話したいし、…………抱き締めてほしい。

昨日の函南くんとの事があったので、この人に対しての気持ちは処理できたと思っていた。 だが、できてなかった。


今はっきり解った。 この人が大好きだ。

函南くんよりもずっと好きだ。 比べ物にならない。
私が本当に一緒に居たいのは、相楽だ。

この人が死ねと言ったら、私は死ぬと思う。 笑えと言ったら笑うし、泣けと言ったら大声で泣ける。

私が作った歌を、相楽が自分の物にしたいと言ったら、――――多分了承出来る。



函南くんも好きだけど、相楽に対してのものよりは幼稚な感情かも知れない。
彼に申し訳が立たないという考えが、もし私の中から消えたら――――。

間違いなく、相楽の腕の中に飛び込むだろう。