「やめたら?」


彼女の小さな声が、どうしてか僕の耳だけに届いた。 周りの奴らには聞こえてなかったらしく、笑うのを止めない。


「“やりたくないけどやらされた”なんて、情けない言い訳だと思わない?」


心臓が抉られたような痛みに襲われた。
彼女は僕を怒ってはいなかった。 傷付いてもいなかった。




僕を憐れむように、真っ直ぐと見詰めるだけだった。












その翌日だった、彼女があの事件を起こしたのは。

朝のホームルームが終わり、一時間目の授業の担当教師が来るのを待っていた。


皆、それぞれに近くの席の友人と話したり自習したりと、思い思いの時間を過ごしていた。
彼女が学校に来てない事を気にかける人は、誰も居なかった。


でも僕は内心不安でいっぱいだった。
前日の事もあるし、朝の情報番組でいじめが原因で自殺した学生のニュースを見たのだ。

違う県での事件だから、彼女ではないのだが、それを見た僕は、とにかく彼女が自殺しないかと気が気でなくなった。






“やりたくないけどやらされた”なんて、情けない言い訳だと思わない?






昨日の彼女の真っ黒な瞳を思い出して、泣きたくなった。 逃げてしまいたかった。 ――いっそ死んでしまいたかった。


そうして僕が、後悔から机に突っ伏しそうになった時、教室の前方のドアが開いた。

皆は教師が来たのだと思い、教室内は静まり返った。













しかし、教室に入ってきたのは教師ではなく、
金属バットを片手に持った彼女だった。