緊張していたので声が震えたが、オジサンは笑わずに聴いてくれた。 歌詞もメロディーも考えに考え抜いて作ったものとはいえ、出来上がった時点では違和感があった。 だが、こうして口に出して歌ってみて初めて、曲の完成を感じられた。


歌い終わると、オジサンは大きな拍手をくれた。 「すごい。 上手だよ」だが奧のテーブルで眠る男性が五月蝿そうに唸ったので、直ぐに止めた。
そんなに可愛くはないが「てへっ」とお茶目に笑い、テーブルに肘をついた。


「何か静かな曲、できる?」

「じゃあ、“なごり雪”」


再びギターを構え直し、弾き始めた。
アルペジオに乗せて、歌う。

この曲が生まれた時代は全く知らないが、なぜか空で歌える。 個人的にはサビに入る前のパートが好きで、無意識にそこだけ口ずさんでたりする。 別れの歌は悲しいが、本当に良い曲はそれでいて美しいのだ。