名前も知らない女は俺の隣にドスっと座った。


いや、名前は一応聞いたが、覚えてもいない。


女は相変わらずの猫なで声で、言った。


「あー、お腹へっちゃったぁ。何か注文しよっと」


そしてあろうことか、このクソ暑いのに俺の腕に擦り寄ってきた。


ウザい。


好きでもない女に、このクソ暑いなかくっつかれるのが、死ぬほど嫌だ!


俺は不満を表情にだすが、女は気付かず、店員さんを呼んだ。


「すみませーーん!このぉ、『店長の気まぐれケーキ』をお願いしますぅ」


店員さんが申し訳なさそうに、言った。



「まことにすみません。この時間帯は店長は留守でして、お作りすることができないんですよ」

とても心地の良い低い声で、その男の店員さんは『すみません』と言いながら深々と頭を下げた。


ちゃんと教育された店員だ。


お辞儀の角度と話し方。


こちらをイラつかせないような、丁寧な謝りかた。


この店は気にいった。


少なくともこの店員がいるときは、どんな最悪な店員がいようと、来たいと思うな。