『いつか見た、真っ直ぐと続く水平線は俺の人生に似ていた。
どんなに水のなかでもがいても、一切揺らぐことのない水平線。
そんなところまで、俺の人生そっくりだ。
俺が母の体から産み落とされたときから、俺の人生は決まっていた。
いい学校に入学して、親の病院を継ぐ。
そして、ずるくて醜い大人に愛想笑いをふりまく。
愛想笑いは得意だし、医者の仕事も楽しいからいい。
でもなにか足りないのだ。
例えば考えて見てくれ。
俺の人生が水平線ではなく、線路と考えてくれ。
線路は確かに真っ直ぐと続く。
だが線路は途中で道を変えることができるのだ。
俺は水平線なんかじゃなくて、線路がいい。
大きな壁にぶつかっても途中で道を変えることができる線路がいい。
水平線も悪くはない。
でも水平線は物足りない。
道を変えることもできなければ、変わったこともない。
そんなの面白くない。
もし俺が産まれてくるときに自分の人生が選べたならば、完璧な人生じゃなくて少し大変な人生を選ぶだろうな。』